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『Lord of the Flies』 by William Golding

今回ご紹介するのは、ノーベル賞作家William Goldingによる『Lord of the Flies』です。日本では『蠅の王』というタイトルで知られています。哲学書ではありませんが、哲学的なテーマの小説です。英語圏では学校の授業でも取り扱われるほど有名な本です。

ストーリーは、少年たちを乗せた飛行機が海に墜落し、かろうじて生き残った少年たちのグループが無人島で共同生活を始めるというところから始まります。少年たちは、投票でリーダーを選び、会議では順番に発言をするというように、民主的で秩序あるコミュニティーからスタートします。



少年たちは、大人という秩序の番人がいない中で、自由を謳歌します。「No grown ups!」と思わず声に出して叫ぶ一説が印象的です。

ところが、徐々に雲行きが怪しくなります。「ハンター」と称する、狩りを担当していた少年たちが次第に離脱を始めるのです。そして、島に怪物(beast)がいるという噂がたち始めると、ハンターのリーダーは影響力を強め、徐々に投票で選ばれたリーダーから、他の少年たちの支持を奪っていくのでした。中には、自分たちが危険な方向に進んでいることに気づく子もいました。しかし、そういった声はハンターたちの熱狂のなかでかき消されてしまいます。そして、悲劇が始まります。はじめは事故で一人、そしてまた一人…。

『Lord of the Files』は冒険小説ではありません。この作品でGoldingは、民主的で秩序ある社会をつくろうという人間の試みの脆さを描いています。少年たちのコミュニティーは人間社会の縮図であり、「蠅」とは私たち人間のことを指しているのです。

秩序の番人がいない中で、少年たちがある種の「戦争状態」に陥るというペシミスティックな物語は、ホッブズの『リバイアサン』を想起させます。少年たちにとって、大人はある意味ではリバイアサンなわけです。しかし、その大人もまた実は「蠅」にすぎないのです。物語は第二次世界大戦のころに設定されています。島から遠く離れた地では、大人たちが血みどろの戦争を繰り広げているわけです。

ホッブズは、「リバイアサン」のような絶対的権力の必要性を強調したわけですが、この物語は、秩序の崩壊を描くと同時に、その受け皿となる権力に対する警鐘でもあります。外敵や得体の知れないもの、つまり「怪物」に遭遇したとき、リベラルな社会は危機を迎えます。不安や不満の受け皿となるのは、大抵は「ハンター」のような「力強さ」や「頼もしさ」を売りにする権力です。また、「国家に危険が迫っている」と国民をあおって、支配を強化しようというのは、国家権力の常套手段でもあります。この物語のなかで一人の少年がつぶやいているように、本当の怪物は私たち自身なのです。

リベラルな社会は脆弱でリスクを伴います。それでも私たちが「ハンター」になることを望まないのであれば、私たちは状況が危機的であればあるほど、危険な権力の台頭に警戒しなければなりません。外敵やテロ、犯罪から私たちを守ってくれる権力が、唯一守ることができないのは、自由で民主的な社会そのものだからです。
by ars_philosophica | 2011-09-11 14:41 | 哲学書の紹介 | Trackback
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